ECRR2010年勧告をICRP2007年勧告と比較して考えたこと

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 ICRPの防護措置が内部被曝を十分に考慮していないと
いった見解をECRRが認めているといったことに関し、
ECRR2010年勧告の一部を訳すことから始めたい。これ
は昨日の記事の続編になり、URLは以下の通りになる。
http://www.euradcom.org/2011/ecrr2010.pdf

欧州放射線リスク委員会2010年勧告
低線量の電離放射線による被曝の健康への影響

1 ECRR

1.2 2003年以降の展開

2003年以降の期間においてCERRIE委員会では、放射線
リスクの分野は完全に変わった。ECRRが始まったとき、
内部被曝や細胞にとって重要なDNAにおける効果におけ
る異なる反応についての問題は大体において新しいもの
であり、少なくともICRPによって避けられていた。当時
のリスクモデルの疫学的基礎は一貫して高線量における
外部被曝に対するものであり、ICRP1990における日本の
原爆生存者の研究とその解釈がある。これらのデータは
'放射線恐怖症'のような警告的な報告をしっかりと整理し
ていたICRPやUNSCEARによって無視されてきたように
思われるが、当時からチェルノブイリ事故の健康への影
響は非常に明確であった。それにもかかわらず放射線恐
怖症は遺伝子の発展がECRR2006やECRR2009に貢献し
ている著名な自然科学の研究者によって記されているヨ
ーロッパヤチネズミ、小麦や他の生命体の数世代に影響
することはなかった。複数の地域(旧ソ連諸国やヨーロ
ッパ諸国の双方)に影響したチェルノブイリにおける実
際のデータの結果はECRR2003モデルの予測を証明した。
当時からウラン兵器いわゆる劣化ウランのフォールアウ
トにあるように、分子や粒子の形態においてウランとい
った元素による被曝の異常な影響に関する報告が同様に
あった。これはウランに対する内部被曝の影響に関する
研究への多大な努力に繋がっていた。この研究により提
起された問題は1997年におけるECRRによってもたらさ
れ、それはECRR2003モデルやDNAに対する化学的親和
性や崩壊の状態に基づいたある同位体に対する内部被曝
のための重み係数の展開の基礎を形成した。

2009年初めにICRPの科学局長であり、その1990年と20
07年報告の双方の編者であるJack Valentinが辞任した。
2009年4月21日にストックホルムで彼とECRRのChris
Busbyの間で開かれた議論で、彼はICRPリスクモデル
が人間の集団に対する被曝の健康への影響を予測したり
説明したりするために用いられることがかなわなかった
ことを述べた。彼が続けたことに、これは内部被曝に対
する不確実性が非常に大きく、いくつかのケースでは2
ケタのサイズの問題になるからであった。これは設立
以来ECRRの議論になり、ECRR2003に記されている。
Valentinは同様に(このビデオインタビューの中で)彼
はもはやICRPによって雇われていないので、ICRPや
UNSCEARが研究報告によって提起されているチェルノ
ブイリや他の影響を無視していることは間違ったことで
あると考えているといったことを話すことができると述
べていた。

9 低線量での健康への影響を確立すること:メカニズム
とモデル

9.6 線量と影響の関係

放射線量と影響の間の関係が盛んに研究されている。
ICRPのリスクモデルは、低線量でその関係がLNTとして
知られる影響が現れるためには閾値がなく線形で表され
ることを仮定している。初めにこれは、安全な線量がな
く、最低の線量でさえ健康被害を及ぼす有限の蓋然性を
有することを示している。二番目に、線量を2倍にする
ことは影響を2倍にする原因となり、この仮定には基本
的に2つの理由が挙げられる。

第1にそれは前述のセクション9.2で説明されている放射
線作用について知られていることへの配慮から判断され
る。明らかにもし健康上の障害が細胞のDNAに関連して
いるならば、そしてそれは順に起こる打撃の結果である
が、また他方でもしこれらの打撃が時間と空間で離れた
距離により独立に行われるならば、その影響は線量に線
形で比例的にならねばならない。細胞は打撃されるか、
打撃されないかいずれか一方なので、1回の打撃より低い
状態はなく、安全な線量は存在しない。

線量と影響の関係が線形であると信じるための第2の理由
は、実験における細胞培養や動物そして外部放射線に対
し被曝した人々からのデータが線量に対し線形で比例的
である影響を示すと解されるからである。ただしこれは、
低線量においてより小さい(もしくは有益でさえある)
と主張する人々とデータは低線量でより高い影響を示す
と主張する人々によって議論されている。外部照射の研
究のケースでは、検討された小さな集団は広い信頼区間
を有するといった結果になり、多くの様々な曲線がデー
タを通じ描かれている。

線量と影響の関係における仮定は放射線被曝の疫学的研
究の理解にとって重要であるため、委員会はたいへん慎
重にこの分野を研究した。委員会は、外部放射線の近似
を除いて、線量と影響の関係は低線量の領域において線
形になりそうもないと信じるに十分な証拠があると結論
づけ、低線量でかなり高い影響を示す関係を肯定し、
LNT近似を却下した。この理由は以下の通りである。

9.6.6 ホルミシス効果

たくさんの動物と試験管内での研究は、少ない線量の放
射線が'ホルミシス'と名付けられた保護上の効果(ギリシ
ャ語のhormein,'to excite'由来)を有する証拠として引用
されている。この線量と影響の関係では、初めに放射線
の線量が増加するので曲線は落ち込むことになる。線量
が増加するとき曲線は再び上昇し、影響も増加するけれ
ども、最低線量の制御はこのようにまだ低線量であるけ
れどもわずかにより大きい線量より大きい健康上の障害
を示している。曲線は図9.4に示されている。

この影響に対し与えられる説明は、最低線量で細胞修復
の増加された効果が放射線被曝により誘発されていると
いうことである。したがって線量が増加すると、初め放
射線は発癌の減少に伴い、保護効果を有することになる。
委員会は慎重にホルミシス効果とそれを支持する証拠を
考慮しており、そのようなプロセスはありうると結論づ
ける。効果は中程度の線量のレンジ(例えば20mSv以上)
で起こるとみられ、多くの説明を有する可能性がある。

しかしながら、それはホルミシス効果のいくつかの証拠
が人工的に発生したものからの結果になるといったこと
かもしれない。もし低いレンジにおける線量と影響の関
係が2つのフェーズをもつ曲線に随うならば、明白にホ
ルミシス効果を示すために必要とされる全てのことはゼ
ロ線量/ゼロ効果点を除外することになる。それは、高線
量における実験からの演繹的結論がこの低線量の領域で
そのような変化の可能性と乗じ合わせることができなか
ったため、点がばらつきとして解釈されたかそれらが外
れ値として最低線量と影響の関係を除外することによっ
てホルミシス効果の落ち込みを強いられたかのいずれか
といったことになるかもしれない。

委員会は条件付きで、ホルミシス効果は存在するかもし
れないが、もしそれが存在するなら、その長期の影響は
前段に記された理由から有害であるかもしれないと結論
づける。委員会は、放射線防護の点でホルミシス効果を
考慮に入れるべきではないと推奨する。

9.6.7 線量と影響の関係における委員会の結論

委員会はICRPのLNTの仮定を小さなレンジで成立するか
もしれない近似を除いて無効であるとの主張に同意し、
事実、委員会はプラグマティズムの問題として低線量の
領域においてそのような関係を採用している。あらゆる
タイプの被曝やあらゆる目的のために普遍的な線量と影
響の関係が存在すると示すための、そしてそのような関
数が致命的な過度の単純化であると仮定するための十分
な証拠はない。ただし、0から約10mSv(ICRP)までの低
線量のレンジにおける影響がある種の超線形関数や分数
指数関数に随う可能性があると仮定するための十分な理
由は存在する。2つのフェーズをもつ線量と影響の関係
が存在するための十分な理論的、経験的証拠があるので、
委員会は強くいかなる疫学的見解もあらゆる形式の連続
的に増加する線量と影響の関係に一致しないといった基
礎の下に捨て去られるべきでないといったことを推奨し
ている。

 ここからは私見になるが、ICRP, BEIR, ECRRいずれ
にせよLNTモデルを採用しているが、低線量の扱いに関
して、BEIRが線形モデルを採用し、ECRRが非線形モデ
ルを採用しているといった違いがあり、両者共に低線量
被曝の問題について詳細にかつ慎重に議論を行っている。
そしてECRRは内部被曝の問題に言及している。

 何故メディアで風評被害が問題になるかと言うと、
「爆発事故」と言えば良いものを「爆発的事象」と言い
換えたり、「長期に亘ると晩発性障害の可能性がありま
すが、」と一言ことわれば良いものを「ただちに影響が
ない」と言い換えたり、「10mSv〜20mSvについてこの
ような議論が行われておりますが、」と問題点を公表す
れば良いものを「緊急事態だから20mSvで安全である」
と言い換え、未だに基準となる数値が改善されていない
ことに加え、「ICRP以外に安全を考慮するための考え方
は複数あり、このような議論を行った、」と問題点を公
表すれば良いものを「ICRPではこう、原子力安全委員会
ではこう、」では賛同を得ることは難しいと考えられ、
メディア自体も既存の権益構造を体現しており、一連の
プレーヤーにおける科学的思考といったものがすっぽり
欠落している点が今後に向けての課題になるだろうと考
えることがある。

 事実に目を向け、緊急事態は継続しているが、これは
長期化する様相を呈しており、早く除染を行うなど、や
ることに手をつけていない状況は、おそらく関西圏にと
ってこの東日本の状況がまだ理解されていないことも背
景にあるのだろうかと考えることがあった。

 問題の本質は単純で、権威を有り難がり、事実を考慮
しないことにあると考えられ、公的立場にあると認識し
ているならば、理論的背景と事実の両面から説明できる
ようにならないことには当面の間現在の問題は続くもの
と思われるときがある。またこの続きは機会があるとき
に行うこととする。

 明日もがんばろう。

 では。

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コメント(2)

全部自力でICRP2007とECRR2010を対比して考えようという姿勢は立派です。おっしゃっていることはすべて的を射っています。

ECRR2010の日本語訳はごく最近有志によりネット公開されました。
http://www.jca.apc.org/mihama/ecrr/ecrr2010_dl.htm

ECRRのみ取り上げて結論を出している訳
ではなく、BEIR VII、ICRP、Académie
des Sciences等の見解を踏まえて、色々
と調べている現状です。

紹介されたURLの訳文を全て確認した訳
ではありませんが、著作権保護の観点か
ら、この記事では全文訳を掲載しなかっ
たといった経緯になります。

原子力の平和利用といった観点では、古
い技術を古い組織が擁護しているといっ
た批判がでてくることが予想されますが、
それが新しければ良いかというと、そう
いった問題の性質ではないことが予想さ
れます。随い結論は立場を超えたものに
なるでしょう。

この続きは機会をあらためて行う所存で
す。それでは。

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