原発報道と福島の子供たちについて

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 科学的思考が既存の権益構造に対し敗北することはない
といったことを考えることがあった。その背景について、
ICRPの2007年勧告の抜粋の一部を訳した後に申し添える
ことにする。

ICRP2007年勧告(Pub.111)

原子力事故や緊急被曝の後、長期に亘り汚染された地域に
生活する人々を防護することに対する委員会の勧告の適用

実施要領

(o) 汚染された地域に生活する人々の防護を最も適切にする
ための基準レベルは、被曝状況というこのカテゴリーの管
理のためにICRP2007年勧告(Pub.103)の中で推奨される
1-20mSv/年のうち、より低いバンドの中に選択されるべき
である。長期の事故状況を最も適切にするプロセスを規制
するために用いられる基準となる値は1mSv/年になる。国
家当局は一般的な状況を考慮しても良く、また徐々に状況
を改善する中間点となる基準レベルを採用する全般的に考
慮された復興プログラムを適切な時期を見ながら採用する
ことを念頭においてもよい。

3. 汚染された地域に生活する人々の防護に対する委員会の
システムの適用

3.3. 個々の被曝を制限するための基準レベル

(45) 委員会は、個々の年実効線量(mSv/年)の観点から設
定された基準レベルが既存の被曝状況における被曝を最も
適切にするプロセスの計画と実施を組み合わせ用いられる
べきであるということを推奨する。その目的は、最も適切
な防護戦略や緩やかな幅をもつ基準レベルより低い個人線
量を低下させる目的をもつ戦略を実施することである。計
画段階では、最適化プロセスは基準レベル以下の推定線量
になるべきである。最適化プロセス実施の間、基準レベル
以上になることが懸念される個々の被曝線量を減らすため、
特別の注意が払われるべきである。また子供や妊婦などの
特定のグループにおいて特別の注意が払われるべきである。
しかし基準レベル以下の被曝が蔑ろにされるべきではなく、
それらの被曝は防護が最も適切にされているかどうか、も
しくはさらなる防護措置が必要とされるかどうかを確かめ
るために同様に評価されるべきである(ICRP, 2007, Para.
286)。

 ここで問題があり「福島の子供たちにとって20mSv/年は
安全ですか」といった問いは適切でなく、被曝線量は小さ
ければ小さい程危険性が少なく、これは閾値が存在しない
仮説を採用していることに基づくものだが、「・・・基準
レベルは・・・1-20mSv/年のうち、より低いバンドの中に
選択されるべきである・・・」と記した通り、基準は低け
れば低い程妥当であり、「・・・基準レベル以下の被曝が
蔑ろにされるべきではなく・・・」と記されている通り、
どこにも安全性を保証する話にはなっていないことを理解
して戴けるだろうか。

 科学的思考が語りかけることは何かというと、被曝線量
の大小が危険性の大小を説明することになるのだが、危険
性が小さいことは安全と同値であるといったことでなく(
つまり個々によって経過が異なるといった問題を内包して
おり、放射線のプロが考えることとは許容される範囲内で
できる限り被曝線量を低くするにはどういった備えが必要
かといったことになるのだろうと僭越ながら想像している
...)、その危険性を許容できるかといった個々の考え
方の問題と低線量被曝と晩発性障害の関係をどう考えるか
といった問題であろうと考えることがあるが、メディアの
説明の背景には以下の様なことが含まれるのだろう。

 つまりメディアに登場する放射線医学の専門家が語るこ
との背景には、メディアに登場することに関して彼ら自身
の経済的な問題とパブリシティをどう考えるかといった問
題があり、彼らの関心の対象である彼ら自身の被曝線量が
増加する問題ではないから、福島の空間線量の高い地域に
おいて子供たちが活動することに対して、被曝線量を低く
することが危険性を小さくすることに繋がるのだが、ICRP
の勧告で保証されている訳ではない安全といった言葉を強
調することになっている現状は、危険性が小さいといった
ことを安全と言い換えていることで説明され得るのだろう
(通常被曝し得る線量のレベルを安全と置き換えることも
考えられ得るが、こういった緊急事態においては意識して
避けることができるならば被曝線量を小さくすれば小さく
する程妥当であると考えるのが賢明だろうと考えることが
あり、それは原子力安全委員会のコメントが示す通りだが、
安全とは実際に個々が被害に遭わなければ安全だと言える
ものであり、個々の状況によってはどうなるか分からない
ときに使える言葉ではない、つまり確率的に安全であると
いった考え方を採用して構わない場合とそうでない場合が
ある、言い換えるならば徹底して確率的危険性を0に近づ
ける努力をし続けなければ賛同が得られない場合があると
いったことを考えることがあった、さらに言い換えると今
回の福島の子供に対する20mSv/年といった基準レベルは
科学的演繹の下での安全性でなく行政的判断の下での安全
性の担保になるであろうから、相応の賛同を得るための努
力が必要とされる問題になるだろうと考えることがある)。

 専門的知見を外部に求めるときその問いかけが間違って
いたら、見合った成果が得られないといったことはあり得
る問題であり、長期においては1mSv/年といった基準レベ
ルが求められているが、緊急時においてはどうなるのかと
いった問題とその緊急時にこういったリスクを考慮すれば
これだけのことができますよといったことと、半ば強制的
にリスクに晒される問題とはその本質が異なるのだろうと
いったことを考えることがあった。

 こういったことを全て理解して、校庭で1時間程度運動
をし、入念にうがいをするというのは、個々によっては可
能かもしれないが、自主的に行動する裁量の余地といった
ものを積極的に認めていき、リスク回避的な行動を認める
社会的バックグラウンドの整備といったものが求められる
ものに含まれるだろうとの考えを抱くことがある。この続
きはまた機会があればそのときに書き記すことにする。

 乱筆失礼、明日もがんばろう。

 では。

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2016・11・15 改訂
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この記事について

このページは、Suzuki TakashiがApril 30, 2011 2:41 AMに書いた記事です。

ひとつ前の記事は「欧米において原発はどのような論点で語られ、WHOのFAQを通じて現在の日本はどう把握されているかについて一考察」です。

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