『最後の審判を生き延びて 劉暁波文集』を読んで

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劉によれば、現代の中国はシニシズムの時代に入っており、言行不一致で建前と本音が乖離しており、利益への忠誠が信念に取って代わっており、公的な場では既得権益による誘惑と圧迫から公的なものへの提灯持ちを行うが、食卓でのテーマではそれが正反対であるといったことが国民の習慣になっていることが指摘されていた。

このような現象は官僚だけに止まらず、メディア、学界、文化界、経済界の至るところに蔓延していた。そして同情心が麻痺し、正義感が失われていることが社会の流行病となっており、彼らはそれらが矛盾していることに対して悩みを持たず、道義的な負担感を感じておらず、利益があればどういった選択も賢いものだと考えていた。

道義的根拠を持たないシニシズムの知恵は数千年の歴史を通じて変わったことがなく、体制エリートや知識エリートは誰も現行の制度を擁護していなかったが、悠然自在としており、そのことが現行制度の安定の助けとなっていた。

現代中国社会の精神風景は、体制内での行為と体制外での行為との間、公的な表現と私的な表現との間、悲劇的な現実と喜劇的な表象との間における分裂を基盤としていたのだが、それらは彼らのシニカルな生き方の中において全て統一されていた。

上記は大陸中国の社会に対する劉の見解だが、香港では若干事情が異なり、行政長官が国家の安全に関わる法規である23条立法を通そうとした際に、北京政府は香港人のことを金銭カードを出せば政治的に手なずけられ、独裁権力の意思を貫徹することができると考えていたが、7・1デモに見られるように香港人は自由な香港への政治的意志を強く有しており、この23条を棚上げにせざるを得なかったことが指摘されていた。

他方で劉は北京オリンピックを取り上げ、金メダルの数が本当の国力や文明の水準を代表するわけでないことや、スポーツにおいてコマーシャリズムやナショナリズムが並行している現代において金メダルを獲得することがスポーツの精神と完全に同一視されるものでないことを指摘しており、選手の立場から言えば、権力の虚栄と民族の虚栄が重ね合わせられた挙国体制と金メダル獲得主義が選手の個人的な生活を奪い、個人の尊厳に関わる問題を内包していることが指摘されていた。

また李零の『喪家の狐‐私の読む『論語』』を参照しながら、孔子が聖人であるといった言説は幻想であり、歴代の皇帝に祭られたのは真の孔子ではなく、作られた孔子であることが指摘されており、『論語』の言葉に多くの智慧を浪費して2000年もの間注釈をし続けてきたが果たしてその価値があっただろうかとの問題を投げかけており、ヘーゲルが『論語』は常識的な道理に過ぎないと述べていることや、『論語』の多くは人間としての処世の道理であり、絶対的な教条や政治哲学の精義になり得ないとの見解が合わせて指摘されていた。

そして中国文化の悲劇は始皇帝による焚書坑儒にあるのではなく、武帝が百家を廃除し儒家を独尊したことにあり、儒家は暴力に基づいて構築された帝政秩序やその合法性を支える形而上学的根拠を与え、暴力統治に仁治という衣を着せて、その衣の意味を解釈するための正統的なイデオロギーを確立させ、読書人や知識人が競って良い奴隷となっていった伝統を生じさせていたことが指摘されており、知識人にとっての最も重要な責任とは権力に従属した御用学者の地位から脱却し、自由な思想と独立した人格からなる新たな伝統を受け継ぐことであることが指摘されていた。

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